解糖系と酸化系のメカニズム



1.ATPの生産方法 

  ATPの生産方法には、無酸素過程と有酸素過程 がある。

 <図表の補足>
  (1)解糖系
    @ 一般に ”解糖系” という場合は、無酸素過程における嫌気的解糖を指す。
      この過程では、乳酸(糖1分子あたり2分子)を生じるため、”乳酸系” ともいう。
    A ATPは糖1分子あたり4分子生産されるが、反応過程で2分子のATPを消費するので、
      差引き2分子の生産となる。
    B 筋肉内に乳酸と同時にプロトン(H+イオン)が発生する。このプロトンが直接の疲労物質である。
      プロトンは筋のpHを酸性にし(H+イオン濃度上昇)、以下の a) b) を引起し運動の継続を阻害する。
       a) ATP再合成酵素(ホスホフルクトキナーゼ)の働きを阻害する。
       b) 筋繊維(正確にはフィラメント)へのCa2+イオンの結合を阻害し、筋収縮力を低下させる。
          ・補足 : Ca2+イオンは筋収縮のトリガーである。
                 したがって、筋収縮にとってカルシウムは必須の栄養素である。
       c) プロトンの処理の仕方
          最も効果的なのは、炭酸イオンバッファー(HCO3-)により H+ を中和することである。
            HCO3- + H+ → H2CO3 → CO2 + H2O   (HCO3- の出所は腎臓)
       d) 乳酸の処理の仕方(プロトン発生のもとである乳酸も処理をする必要がある)
          肝臓にてグルコースに変えられ( ”糖新生” という)、筋肉に戻って燃料として使用される。
       e) クールダウンは、炭酸イオンバッファーを筋肉中に送り込んだり、乳酸の溜まった血液を筋肉外
         に出し肝臓に送るための有効な手段である。

  (2)酸化系
    @ 糖質(グルコース)と脂肪(遊離脂肪酸)を燃焼(酸化)することにより、ATPを合成する。
    A ATPの合成は、細胞内のミトコンドリアで、クエン酸回路+酸化的リン酸化 により行われる。
       ・ クエン酸回路は、Krebs回路 または TCA回路 とも呼ばれる。  【生化学的解説】
    B クエン酸回路に投入される ATPの ”直接の材料” は、アセチルCoA である。
      アセチルCoA を得る方法は、2通りある。
       a) 糖質を有酸素的に解糖することにより合成する。
          ・糖質からピルビン酸を得る過程で、筋肉内ではATPは糖1分子あたり6分子生産される。
          ・なお、この時得られるピルビン酸は2分子で、ここからアセチルCoAは2分子得られる。
             (補足1) 前述のように、無酸素の場合、このピルビン酸は乳酸になってしまう。
             (補足2) ピルビン酸からアセチルCoAを得る過程で、ビタミンB1が必要である。
          ・1分子のアセチルCoAがクエン酸回路で代謝されると、得られるATPは15分子なので、
           最終的に糖質1分子から、 6分子 + 15分子 × 2 = 36分子 のATPを得る。
          ・この過程では、乳酸は発生しない。
       b) 脂肪をβ酸化することにより合成する。
          ・β酸化は、細胞内のミトコンドリアにおいて、有酸素環境下で行われる。

 余談になるが、アルカリ性食品による疲労回復法(例えば、レモンや酢を食すこと)は、乳酸を除去したり、
 クエン酸回路の働きを活性化させる という意味で、理にかなっていると言える。
 また、酢を飲むと身体が柔らかくなるというが、乳酸が除去されて筋肉のコリがとれた結果と考えられる。
    (補足1) レモンの酸味のもとはクエン酸である。 また、酢(酢酸)は体内で分解されてクエン酸になる。
    (補足2) クエン酸や酢酸は、それ自体は酸性だか、体内で代謝されてアルカリ性になる。



2.糖質と脂肪の貯蔵 

  (1)糖質
    @ 糖質食を摂ると血中グルコース濃度が高まり、インシュリンの作用により、筋肉や肝臓にグリコーゲン
      として貯蔵される。 筋肉や肝臓に貯蔵しきれない分は、中性脂肪として脂肪組織に貯蔵される。
    A 中枢神経系にエネルギーを供給するため、血中グルコース濃度を一定に保つ必要がある。、
      そのための糖質源として、主に肝臓グリコーゲンが使用される。
      一方、筋グリコーゲンは、筋の運動エネルギーとして使用される。
  (2)脂肪
    @ 筋肉内や皮下や内臓の脂肪組織に中性脂肪の形で貯蔵される。
      皮下に貯蔵されやすいか内臓に貯蔵されやすいかは、個人の遺伝子による。
    A 血中グルコース濃度が下がると、濃度を一定保つためにインシュリン濃度がさがる。
      これに刺激されアドレナリン濃度が上昇すると、体脂肪は遊離脂肪酸に分解する。
      脂肪酸は水溶液にはほとんど溶けないが、血清アルブミンと結合して血中を移動する。



3.有酸素運動における糖質と脂肪の利用率の時間的推移 

  STEP1
      筋肉内のグリコーゲンの代謝によりATPを合成する。
  STEP2
     @ 筋グリコーゲンの減少に伴い、血中グルコースの利用が始まる。
     A 脂肪組織の脂肪が遊離脂肪酸として血中に遊離する。
     B 両者を燃料とし、酸化系の代謝によりATPを合成する。
        (脂肪の燃焼が活発になるのは、運動開始後20分以降である)


 <図表の補足>
   (1)運動のエネルギーは、脂肪と糖質の混合燃料から得られる。
   (2)運動の継続のために必要な糖質は筋グリコーゲンであり、枯渇すると運動は停止する。
      したがって、筋グリコーゲン貯蔵のため、糖質の摂取(ご飯を食べる)ことが必要である。


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