「肥満と糖尿病」Q&A  5:79-81, 2006
メタボリックシンドロームに対する運動療法について

   山之内糖尿病予防研究所 
          山之内国男  戻る(表紙に戻る)

メタボリックシンドロームの病態を川にたとえると最上流に位置するものが内臓脂肪の蓄積であり過食・運動不足といった生活習慣のなかで形成されます。したがって、これを治療するためには食事療法と適度な運動による内臓脂肪の減量に成功することが不可欠と言えるでしょう。基本的には肥満の減量法と同じですが1)、内臓脂肪を減らすとなると運動療法の効果に期待する部分が増えてきます。まず運動により動員される脂肪酸は内臓脂肪が優位であること、すなわち運動により減量する場合は皮下脂肪より内臓脂肪をより減らすことができるというわけです。力士では皮下脂肪に比し内臓脂肪面積が極めて少ないことが一つの例としてあげられます。また、減量のための厳格な食事制限は筋組織を減少させます。さらに減食による食事熱の減少や空腹感による運動量の低下から消費エネルギーの減少を引き起こします。最も重大な問題は消費エネルギーの約75%を占める安静時代謝率を低下させることが指摘されています。適切な運動の併用は、安静時代謝率を高め、筋組織の喪失を防ぎ内臓脂肪をより燃焼させるように働くことが報告されています。このように運動を併用することにより食事療法のみによる問題点が解消されバランスのとれた効果的な減量が達成されます。
 さて具体的な運動実施法についてですが運動の種類は有酸素運動とレジスタンス運動に分類されます。有酸素運動は乳酸が上昇しない(嫌気性閾値を超えない)範囲での運動強度で歩行のような息切れのしない全身運動がこれに該当します。一方、レジスタンス運動は重りや抵抗負荷に対して動作を行う運動をいいますが、有効に実施すれば、筋力、筋持久力を増強し、柔軟性を高め、基礎代謝を高め、有酸素運動と同じようにインスリン抵抗性や耐糖能を改善させることができます。この際、かなりの負荷で息こらえをすると静脈還流が減少し、心・脳への血流が減少し、収縮期、拡張期血圧がともに上昇してしまいます。従ってレジスタンス運動を実施する場合は負荷を軽くして息こらえをしないようにリズミカルに実施することが大切です2)。
 アメリカスポーツ医学会(ACSM)の1978年運動処方のガイドラインでは有酸素運動のみが強調されていましたが、レジスタンス運動の併用が重要視されるようになり、1990、1995年のガイドラインでは具体的にレジスタンス運動を2日/週実施することが加えられています3)。また最近の考え方では必ずしも運動時間をきめなくても10-20分の短い運動でも一日のうちで合わせて30分以上、あるいは身体活動性を高めることにより疾病予防としての効果は十分に認められるとされています。これは身体活動性を高めたりできるだけ歩く生活習慣をつけることの大切さを改めて感じさせます4)。これらの観点から表1に実際に運動をどのように実施するかをまとめました。
キーワード:
有酸素運動:十分な酸素の供給によりミトコンドリア内でのTCA回路で糖や遊離脂肪酸を燃焼させ産生された大量のATPを利用することができる運動でインスリン感受性も増大させる。
嫌気性閾値:血中乳酸が上昇し始める点を嫌気性閾値というが、これに到達する運動強度は心肺能力の相違により個人で差があり相対的運動強度である%VO2maxで約50%前後となる。従って嫌気性閾値に相当する心拍数を概算するには年齢から最大心拍数を推定し、安静時心拍数との差から計算することが出来る( [(220-年齢)-安静時心拍数]×0.5+安静時心拍数 )5)。
アドバイス:
メタボリックシンドロームでは大部分は肥満を伴っており高血圧、高脂血症、耐糖能障害が存在し、冠動脈疾患を合併しやすいので、突然死をはじめ不慮の事故を防ぐためにも運動を始める前に必ず負荷心電図などのメディカルチェックを受ける必要があります。また運動開始時、徐々に運動量や強度を増やすようにし、関節周囲の筋力強化やストレッチング運動を指導し特に自転車や水中歩行など重力の荷重を緩和する運動、足にあったシューズの使用など足の関節に負担をかけない工夫を心がけましょう。

文献
1)山之内国男 運動療法のすすめ方。日本肥満学会編集委員会編 肥満肥満症の指導マニュアル(第2版)医歯薬出版p90-112, 2001
2)山之内国男:高齢者とレジスタンス運動.プラクティス. 18;6:610-611, 2001
3)American College of Sports Medicine. ACSM`s Guidlines to Exercise Testing and Exercise Prescription, 5th Ed. Philadelphia: Willams & Wilkins, pp.206-235, 1995
4) Yamanouchi K et al: Daily walking combined with diet therapy is a useful means for obese NIDDM patients not only to reduce body weight but also to improve insulin sensitivity. Diabetes Care 18:775-778, 1995
5) 山之内国男: 運動療法 -運動の種類・強度・負荷量・頻度- 糖尿病診療マニュアル 日本医師会雑誌特別号130:106-109, 2003

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